完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
血の気が引く音
史緒里の襲撃から2日後。
脳内におかしな物質でも出てるのかと思うほど『ゾーン』に入った桜衣は連日早出、残業で仕事をこなしていった。
その甲斐があり、抱えていた案件達にだいぶ目途がついてきた。そんな矢先の事だった。
寝不足がたたったのか、どうも朝から頭が重い。
つい、こめかみを両手で押さえてしまっていると
『桜衣さん、お願いだから休んでください。悲壮感を感じます。綺麗な人が根を詰めてると凄みで変な色気が出て危険です』
と、未来にそれこそ変な心配の仕方をされた。
とは言えあと一息がんばろうと午後の業務に取り掛かっていると、佐野から声が掛かる。
「――倉橋さん、副社長室に行ってくれる?」
「副社長室、ですか?」
佐野は理由をを教えてくれず、とにかく一人で行くように言われる。
副社長に呼ばれる覚えは……無いよな、と思いながら33階の役員エリアに向かう。
INOSEのオフィスは基本、オープンなレイアウトになっているのだが、社長を始めごく一部の役員は機密情報があるためそれぞれの部屋を所有している。
役員エリア自体には何回か来たことはあるものの、独特の雰囲気があり、足を踏み入れるのにいつも多少の緊張を伴う。
副社長室のドアをノックし、遠慮がちにドアを開けると奥のデスク越しに副社長から中に入るように言われる。
今、部屋には彼しかいないようだ。
副社長室は所有者の人格を反映するように、落ち付いたトーンで統一されており、デスクも重厚且つ機能性の高い自社製品だ。
高いんだよな、このシリーズと思いながら室内に足を踏み入れる。
「急にすまないね、座って貰えるかな」
「失礼します」
促されて桜衣は応接セットの3人掛けのソファの端に座る。ちなみにこのソファは専売契約しているイタリアのメーカーのものだ。
副社長も向かいのソファに腰を降ろした。
改めて正面で彼の顔を見る。
威圧感を感じるほどの精悍で整った顔立ち。
ものすごくイケメンである事は変わりないが、どちらかと言うと正統派の爽やかイケメンの部類の陽真とは別カテゴリーだろう。
従弟と言っても似てはいないなぁと思う。
副社長はおもむろに口を開く。
「精向社の秘書から僕あてに直接クレームが入ってね。国内法人営業部の倉橋が向こうの社長秘書に失礼な物言いをしたと」
「え……」
あのお嬢様、収まりがつかずにクレームまで入れて来たのか。しかも副社長に直接とは、やる事がえげつない。
「向こうは君が暴言を吐いたといっている」
……頭がさらに重くなってきた気がする。