完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
会いたい
「……あぁ、悪いが頼む」
副社長が電話を切った。
彼はソファーに倒れこんでしまった桜衣をそのまま横たえさせた後、慌てることなくどこかに連絡を取ったようだった。
「どこか痛むところは?」
「……いえ、大丈夫です。きっと貧血かと。少しじっとしていたら治まると思います」
一瞬意識が遠退いたもののすぐに気が付いた。
倒れこんだのがソファーの所で良かった。
昔から貧血の気があり、中学の頃はスポーツ貧血で医者に掛かった事もあった。
成人してからも何度かフラッとしたことはある。やはり無理をしてしまったのかもしれない。
「そうかと思って、今、女性社員を呼んだ。そのまま横になっているといい」
「わざわざ……すみません」
何とか声を出す。
それにしても副社長の前でなんて失態を……忙しいのに迷惑を掛けてしまっている。
しかしまだ、頭がグルグルしているようで気持ちが悪い。
素直にこのままでいた方が良いだろうと桜衣は目を閉じた。
「……俺が介抱したらアイツに殺されかねないからな」
「……?」
副社長の呟く声が聞こえて来たような気がする。
「そうで無くても、どうしてるとか、元気かとか他の男に色目使われて無いか、飲みに行って無いかとか、様子を確認しろと聞いてきて、鬱陶しいんだよ」
なんの事だろう?血の気の無い頭で理解に苦しんでると乱暴にドアが開く音と同時に「桜衣さんっ!」と呼ぶ声がする。
声の主は未来だ。
そうか、副社長は未来を呼んでくれたんだな、と思いつつ、すぐに反応出来ず目を閉じたままでいる桜衣を見て、驚いたのか慌てて駆け寄ってくる。
「桜衣さん!?和くん、桜衣さん大丈夫なの?救急車は!?」
「落ち着け、未来。本人は貧血だと言っているし、意識はある」
(え……『和くん』?)
たしか、副社長の名前は猪瀬和輝。しかも副社長も未来を名前で呼んでいる。
「……ごめんね、未来ちゃんにも迷惑掛けちゃって」
重い目を少し開けて見ると目の前で未来が屈んでいた。
「良かった……桜衣さん、辛いですか?」
意識があるのが分かって未来は安堵したようだ。
「貧血だから少し休めば大丈夫……あの、未来ちゃん今副社長の事……?」
未来はハッとして『しまった』という表情をする。
慌てて副社長の呼称を間違えてしまった事に初めて気付いたらしい。
気まずそうな未来の視線が副社長に向かう。
「――僕と未来は親同士が友人で子供の頃から付き合いがある」
和輝は相変わらず落ちついた声で言う。
なるほど、幼馴染の気安さだったのか。