完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
枕元に置いていたスマートフォンが振動し、着信を告げる。
「えっ?」
手に取り表示を見た桜衣は息を飲み、でも慌てて通話ボタンを押す。
「結城……?」
『――桜衣』
今まさに頭の中を一杯にしていた人物からの電話だった。
『まだ仕事中か?』
「ううん、もう家に帰って来てる」
『お疲れ――今良いか?』
落ち付いた優しい声が自分を呼んでいる。
久しぶりに聞く陽真の心地よい声が桜衣の心の中に染み込み、切なさが溢れてくる。
本当に自分はどうしてしまったんだろう。完全に脳内が乙女回路だ。そんなキャラじゃないのに……。
大丈夫だと答えると
『――体調でも悪いのか?声が疲れて聞こえるけど』
と、伺うように言われる。
「え、別に大丈夫よ!まあ、確かにちょっと忙しかったけど、随分落ち着いたかな」
ドキリとして、わざと明るい声を出す。勘が良くて怖い。
「確か明日コンペだって聞いてるけど、私に電話してる場合じゃないんないの?」
『もう、やるべきことは全部準備出来たから、明日の本番前に君の声が聞きたくなって』
「……私の声を聞いたってご利益にはならないけど」
こんなに嬉しいのに、相変わらず可愛いことは言えない自分にガッカリしてしまう。今更なのだけど。
『俺にとっては何よりのゲン担ぎだよ』
それでも彼の口ぶりは離れる前と同じようで、少なくとも表面上はわだかまりは感じない。そのことに少しホッとする。
その後、お互いの仕事の話などをしたが、史緒里の事など、余計な事は言わないようにした。
「……明日、頑張ってね。結城なら大丈夫だと思うけど」
『あぁ、そのために色々犠牲にしてきたんだ、本気で取りに行く――桜衣』
「ん?」
『――会いたい』
少しの間の後、彼の声がやけに切なく甘く聞こえたのは、自分も会いたいと思っているからだろうか。
「……」
『コンペが終わったら会えないか?ちゃんと話したいことがある』
「うん――分かった。私も話したい」