完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「初めて、知りました……でもやっぱり本間さんのせいじゃないです……お母さんも言ってくれたら良かったのに」
「華絵さんは君が16歳になったら話すって言ってたんだ。16歳になれば結婚出来るし、『大事な人』が出来るからって。だからもう、君には話していたとばかり思ってた」
母が亡くなった時には桜衣は16歳になっていた。しかし、早々に母を突き放す形で家を出てしまっていたから話すタイミングが無かったのかもしれない。
「華絵さんは確かに自由な人だったけど、娘の君の事も、ちゃんと愛していたよ」
母の言葉を思い出す。
桜衣ちゃんもいつかお母さんみたいに『大事な人』に巡り会えるわよ
あぁ――あれは……お父さんの事だったのか。
「もう……お母さん、何でそんな肝心な話勿体つけておくのよ……っ」
感情が溢れて出て声が詰まる。
もっと、母と話す機会を作ればよかった。傍にいれば良かった。
困った母だったが、憎んだ事は無かった。彼女には笑っていて欲しくてずっと一緒に居たのに。
きっと母は亡くしてしまった恋人――父の事が忘れられなくて、寂しさを埋めたくて、誰かを求めて次々と恋愛を繰り返したのだろう。
でも、結局だれも父の代わりにはならなくて……
やっていることは理解出来るわけではないし、振り回された身としては複雑だけど、恋を知った今なら、ほんの少し、彼女の気持ちがわかる気もする。
――深く父を愛していたという気持ちが。
「まったく、お母さん、こじらせすぎ」
桜衣は涙を湛えながら笑う。
「はは、でも、やっぱり彼女は可愛くて愛情深くて魅力的な女性だったよ」
娘の君は大変だったかもしれないけどね、と本間も笑う。
後悔は完全に消える事は無いのだろう。
でも、もう知る事の無いだろうと思っていた母の気持ちに触れ、心の靄のようなものが少し晴れた気がする。
ここに来て良かった。
「……本間さんは、今は?」
「君らと別れて数年後に出会った人と結婚して、今娘が小学生だよ」
写真見る?とスマホを取り出して画像を見せてくれる。
そこには自宅でバースデーケーキを前に幸せそうに笑う可愛らしい女の子が写っていた。横には優しそうな女性も。
「わぁ、本当に可愛いですね。本間さんにそっくり」
「でしょ、中学生になったら君みたいに美人で優しい子なるといいんだけど」
彼が新しい出会いを得て、前に進み、幸せに暮らしていることが心から嬉しい。
「桜衣ちゃんは……大事な人は出来たのかな?」
そう聞かれて桜衣の心の中に『彼』の真っ直ぐな笑顔が浮かぶ。当然の事のように。
「……はい」
「それは良かった、君を射止めるなんてどんな人なんだろうね、元父親としては気になるなぁ」
本間は目を眇めて口元をキュッと結ぶ。昔、よくこの表情を見た。
――懐かしく暖かい気持ちになっていた……時だった。
「えっ」