完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
最後の条件
「ねぇ、どこに行くの?っていうか、何で結城がここにいるの?」
前方をずんずんと歩く彼から返事は無い。
本間と別れた後、陽真の腕からは開放されたものの、強引に手を取られた。
長い脚で早足で歩かれるものだから付いて行くのに必死だ。学校からどんどん離れていく。
陽真と会うのは明日、東京でだったはず。自分がここに来ていることは知らせていない。
ここは彼の地元なのだから帰省していても不思議では無いが、偶然だったのだろうか。
陽真は振り返らないまま桜衣への質問の答えと違う言葉を口にする。
「……てっきりナンパされているのかと思った」
とてもバツが悪そうだ。
「あんな場所で普通ナンパなんてされないよな――しかも……俺、カッコ悪すぎる」
君の事になるといつもこうだ……と呟いている。耳のあたりが少し赤くなっているのがわかる。
「あの、でも結城心配してくれたんだよね。ありがとう」
桜衣の言葉に陽真はハッとしたように歩くのを止め、振り向いた。
視線が合う。
やっと、ちゃんと彼の顔を見れた気がする。
久しぶりだからだろうか。今更ながら、整った顔だなぁと思う。その彼の澄んだ黒い瞳が自分を捕らえていることに心臓が甘く高鳴る。
「お義父さんだったんだな」
「そう。私にとって、ずっと優しいお父さんのイメージも、変わってなくて」
本当に今日ここに来て良かった。
陽真は「はー」と息をつく。
「――ごめん。つい早足になってた。貧血で倒れたんだよな……大丈夫か?」
「えっ、何で知ってるの?」
「昨日、コンペが終わった後、会社に連絡したんだ。その時に園田さんに聞きだした。一昨日電話で話した時に君が元気が無かったから気になって。コンペ前に心配かけたくないから俺に知らせるなって言ってたらしいな『コンペ終わったし、元気になったみたいだしもう良いかな~』って言いながら教えてくれたよ」
「あぁもう……未来ちゃんたら」
確かに「コンペ前」に彼を煩わせたくないからと言ったけれど、終わった直後に言っちゃうとは。
「うん、体調はもうすっかり大丈夫」
良かったと陽真は表情を緩める。
「結城がこっちに来てたなんて思わなかった」
「それも園田さん。ホントは俺は今日会いたかったのに、桜衣が会ってくれないって言ったら『桜衣さん明日、日帰りで子供の頃自分が住んでいた場所に行ってみようかなって言ってましたよ』って教えてくれた。わざわざ『日帰り』って言う事は、東京じゃ無くてそれなり距離がある場所だと思った。だったらここしかないかなって。君が来てるなら、驚かせようと思って。どちらにしても……俺も一回ここに戻って来たい気持ちになっていたから」
「……確かに、驚いた」
陽真も未来に『会ってくれない』なんて恥ずかしいことを言わないで欲しい。
そして、未来も情報がダダ洩れでは無いか。
でも、きっと彼女は桜衣の事を考えて言ってくれたのが分かるから、怒る気にはならないのだけれど。
「まずは学校に行ってみようと思った、もしいなかったら……」
陽真は桜衣の手を握りなおす。
「桜衣……あそこに、行ってみないか?俺たちが最後に話をした川沿いの」