完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「わたしね、怖いんだと思う。誰かに頼り過ぎてしまうのが」
失った時の喪失感が怖くて、人間関係には深く踏み込まないようにしてきた。それでも十分生きていけるから。
「結城が精向社と行き来するって話が出た時、あんな言い方しちゃったのも、これ以上一緒に居たら結城に依存しちゃうって思ったから……それに、結城は向こうの方が望む仕事が出来るんじゃない?」
フェンスの上に置いていた桜衣の左手がふわりと温もる。
陽真の大きな掌が重ねられていた。
「俺は、精向社には行かないよ」
「――史緒里さんはそう思って無かったみたいだけど」
「その事は、副社長……和輝から聞いた。和輝と従弟だってこと、黙っててゴメン」
「別に良いよ。社長の甥で副社長と従弟なんて知られたら仕事がしにくくなるもんね」
「いや……それは、ちょっと違うんだ。まあ、後で話すよ」
陽真は、言いずらそうにしてから話を戻す。
INOSEの社長は精向社の社長と学生時代からの友人だった。
甥である陽真は上京後、その伝手を使って建築のプロである社長に色々とアドバイスを貰っていたらしい。
社長に気に入られ、向井の家にもよく出入りしていた事もあり史緒里に懐かれていた事、彼女は親戚の子ぐらいにしか見えないし、結婚だの後継だの考えられないと思っている事を淡々と話す。
「史緒里は君に暴言を吐いた上、和輝にクレームまで入れたらしいな。俺が君が好きだから史緒里の事は考えられないってはっきり言ったせいで、逆恨みしたんだと思う。すまなかった」
「………えっ?」
驚き、視線を川面から陽真に移すと彼もこちらを見つめていた。
(君が好きだから?)
もしかしたら……という期待は無かったわけではない。
その気持ちが聞かせた幻聴かと思った。
桜衣の揺れる瞳を陽真はしっかりとらえて言う。
「桜衣が好きだ」
川面を滑って来た少し冷たい風が陽真の黒い髪を揺らし、桜衣の艶やかな髪を撫でていく。
陽真の表情は真剣で、からかっている訳ではない事が分かる。
「本当はずっと言いたかった。でも、言葉したら言葉で断られそうで、遠回りした。俺だって怖がりだ」
「あの……」
「カッコ悪いついでに、最後まで聞いて」
フェンスの上で桜衣の手を握る力が強まる。
「中学の時から君を忘れた事は無かった。再会した時、条件がどうとか言い出したりしたのは、何とか時間を掛けて君に俺を意識してもらいたかったからだ……でも、条件は全部本当の事だよ」
(私をずっと思ってくれていた?……あの頃から?)
「ほんとう、に?」