完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
桜衣には父の記憶が無い。
母華絵は未婚の母だ。20歳の若さで父と出会い桜衣を妊娠したのだが、結婚する前に父は不幸にも病気であっけなく他界してしまったらしい。
祖父母は産むことを大反対し、勘当同然に家を出たらしい。若くして大変だったと思う。
そんな状況で産んで育てて貰った事には感謝している。
しかし、桜衣は母に振り回されて生きて来た。恋愛体質というものだろうか、母は恋多き女だった。
どこかつかみどころが無く、ふんわりとした色気を持っていた彼女は、美しい容姿も相まって男性を惹きつけた。加えて本人も惚れっぽいのですぐに男に夢中になってしまうのだ。
しかし気持ちが冷めるのも早く、相手の欠点が目に付くようになり、別れるということを繰り返していた。
次々変わる恋人達の中で内縁関係にまでなった男は2人。
最初に連れて来た男は仕事をコロコロ変え、遊び歩くような人。
2番目は異常に束縛するタイプだった。
彼らに共通していることは、表面上は優し気な面差しをした「イケメン」だった事位だろうか。
母が男を顔だけで選んでいたのだろうか。クズ男ばかり引き寄せてしまうのか。
結果的には別れて正解な男ばかりだったが、その度引っ越しをしたり生活環境を変えなければいけないし、目の前で修羅場を披露されるのも心底嫌だった。
しかし、母は新しい相手と恋に落ちる度に
「とても、素敵な人よ。きっと幸せにしてくれるわ」
とキラキラと乙女のように瞳を輝かす。そして言うのだ。
「桜衣ちゃんもいつかお母さんみたいに『大事な人』に巡り会えるわよ」
しかし、暫くすると、どの相手とも上手く行かなくなってしまう。
暴力を振るうような男は居なかったのと、籍を入れていなかったのが救いだろうか。
ただ、どの「父」も可愛がるフリをしながら桜衣の存在を快く思っていない事は、子供ながら分かっていた。
だから嘘っぽい笑顔で笑うイケメンが今も好きになれない。