完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
声が上ずって掠れてしまう。握られた手が動揺で震えたのが伝わってしまいそうだ。
「あぁ。好きだ。再会して仕事を一緒にするようになって、もっと好きになった」
『好き』の連続に顔が熱くなってくる。鼓動が激しい。言葉が返せない。
「桜衣、俺たちはここにいた頃からお互い環境も変わって来たし、きっとこれからも変わっていく……でも、俺が君が好きだって言う気持ちだけは絶対に変わらない自信がある」
「……結城」
――臆病になっていたらだめだ。私も伝えなきゃ、ちゃんと自分の言葉で。
「私も……好き」
必死で絞り出した声は思ったより小さかったが、届いたらしい。
重ねられた陽真の手がピクリと反応する。
「条件が本当かどうかわからないなんて、言ってごめん。本当は、明日会った時に、謝ってから気持ちを伝えようと思ってたの。感じ悪くて愛想付かされたかもしれないけど、私は結城が……えっと、好きだって」
(こ、これはなかなか恥ずかしい!)
なんせ恋愛実戦経験0だ。もっと伝えたい想いはあるのに上手く言葉にならない。
(仕事の話ならもうちょっと理論整然と伝えられるのにっ……)
心中で悶絶していると、いきなり視界が暗くなる。
「……!」
桜衣は陽真に強く抱きしめらていた。
「――桜衣、ホントに?」
「う……うん」
彼の胸に顔を押し付けられているので声も出しにくい。何とか頷き意思表示をする。
コートの上からトットッ……という少し速い鼓動を聞きながら桜衣はやっと自分の気持ちを伝えられた喜びを感じる。
何て幸せな事なんだろう。こうしてお互いの想いが重なると言う事は。
「結城、苦しいよ」
そう言いながらも彼の背中に手を回して紺色の薄手のコートをギュッと掴む。自ら彼を抱きしめ返したのは初めてだ。
陽真は少しの間桜衣を抱きしめていたが、徐に体を離すと、手を取りすぐ後ろにあるベンチに誘う。
促されるまま腰を掛けたのだが、隣に座った陽真は体を斜めにして改まった様子で桜衣に向き合った。
「この先、俺は君とずっと一緒に居る」
「――それが、最後の条件、だったりする?」
しばしの沈黙の後桜衣は言った。
ずっと思い出そうとしていた。
当時陽真の圧に負けて無理やりひねり出した『結婚相手に求める条件』だったが、4つ目まで、しっかり当時の自分の考えが反映されたものだった。
だから、最後に出した5つ目の条件は本当に欲しいものだったのではないかと。
そしてきっとそれは――
陽真は頷いて言う。
「あの時……仕事が出来る人とか、健康な人とか現実的な事を並べていた君が最後に言ったんだ。『でも結局、ずっと一緒に居てくれる人がいいな』って。一緒に居るなんて当たり前の事だと思っていたけど、君にとっては本当に大切な事だったんだな」
「……うん」
思った通りだった。
きっと、結婚とか関係なく、ただずっと欲しかったのだ。自分だけの失われない絆が。
「覚えてる?俺、君に言ったんだ『高校に行ってもずっと一緒に居たい』って。あれは俺なりの精一杯の告白だったんだけどな」
「……覚えてる。嬉しかった。そう言って貰えて。でも、単純に高校に一緒に行きたいと思ってくれてるんだと思ってた」
今になってみると。そう思う事で、芽生え始めていた彼への特別な気持ちを抑え込んでいたような気もするけれど。
「だよな……やっぱり、はっきり言わないと伝わらないんだ」