完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件

 陽真は膝に置かれていた桜衣の両手を自らの両手でふわりと包む。

「桜衣、あの時は『一緒にいたい』っていう願望でしかなかった。でも、今ははっきりと言えるよ……俺は君と一緒に『いる』」

 陽真の手の温もりと言葉に桜衣の心に温かさが満ちていく。

「――ありがとう」

 この地を離れなければいけなかった身を切るようなやるせない気持ちが、今同じ場所で昇華していく。

「求められているのは結果だから、今証明して見せる事は出来ない。でもこの先、何があっても俺はずっと君と一緒にいると誓う。決して離れたりしない。この条件は一生かけてクリアする。だから――」

 陽真はコートの内ポケットから小ぶりの箱を取り出し、再び桜衣の手を取ると掌に載せ、蓋をそっと開く。



「俺と、結婚してください」



「……えっ……?これ……」

 桜衣は掌の上に光る存在に息を飲む

 上品にダイアモンドが輝く白金の指輪は、どう見てもエンゲージリングだ。

 ダイアモンドは薄いピンク色――桜色に煌めいて存在感を放っている。

「いきなりとか、展開が早すぎるとか思っているかもしれないけど」

 絶句し固まる桜衣に陽真が言う。

 まったくその通りだ。早すぎる、いつのまに指輪なんて用意して――

「再会してプロポーズした時から俺は君と結婚したいって本気で思ってたし、この指輪も精向社の仕事が決まってすぐに準備した。改めて君に本気を伝えようと思って。これを渡すために頑張ろうと思った――桜衣、これを受け取って、俺に君と一生一緒に居る権利をくれないか」

 目の前の彼は整った顔を緊張させ桜衣を見つめてくる。
 
 仕事でどんな大きな案件に直面しても、大勢の聴衆の前で一人で講演を行っても緊張などしたことの無い彼が、桜衣の反応を待って見たことも無いような余裕の無い表情をしている。

「……そうよ。そもそも、再会した時、いきなり結婚しようとか言われて、引くほどびっくりしたのに……今度は、このタイミングで指輪とか……」

 次第に声が詰まり、視界が滲んでいく。気づくと頬が濡れている。
 
 いつのまにか桜衣は涙を流していた。

「……いいの?私、幸せを失うのが怖くて始められないって思ってた重くて面倒くさい女だよ」

「丁度いい。俺も君をずっと忘れられなくて、一生つきまとうおうと思ってる重くて面倒くさい男だ」

「結城……」

――もう、敵わない。素直になろう。なるべくこの人の前では。

「私も離れない。ずっと一緒にいる」

 桜衣は涙をはらはらと零しながら精一杯の笑顔で告げる。

「……よろしくお願いします」

 陽真は目を見開いた後、眩しいものを見るようにゆっくり目を眇めた後、彼女の涙を優しく拭う。
 再び手を取り、そっと取り出した指輪を左の薬指に滑らせた。
 
 ひんやりとした感覚を残し桜衣の細い指にピッタリと収まる。

「ああ、思った通り、良く似合う」
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