完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
彼は蕩けるように笑った後、フッと脱力する。
「良かった……拒まれたらどうしようかと」
心底安心したような顔に、また少し笑ってしまう。
彼の見せてくれる意外な表情は、自分にだけ特別なものかも、と思うと甘い気分になる。
――いいのだ、今脳内は最高潮に乙女回路なのだから。
「キレイ……」
桜衣は左手を目の前に上げ、指輪を桜の枝の間からさしてくる柔らかい光にかざした。
ピンクダイアは桜を思わせる優しい色で、陽の光にその桜色が反射して咲き誇る桜の中にいるようだ。
「君のイメージで作ったんだ。気に入って貰えてよかった」
「でも、こんな良いものを、いいの?」
シンプルでシャープなデザインの指輪はピンクダイアの両側に少し小ぶりのダイアが添えられている。
宝石には詳しい訳では無いが、良いものであるのは間違い無い気がする。
たしかピンクダイアは希少価値が高いのでは……
華奢な箱の内側に刻印されていたブランドは桜衣でも知っているものだ。それをオーダーで作ったと言うのか。
陽真は彼女の手を取ると指輪の近くにそっと口づけを落とす。
「桜衣が俺の特別だっていう目に見える証だろ。それにふさわしいものにしたかった。やっと叶ったと思うと感動で、今すぐこの空に向かってやったー!って叫びたい位だ」
「バカね……」
「そうだな、君の事に関してはバカになってる」
指に添えられていた彼の唇は桜衣の頬に移動し、柔らかく触れた後、唇に移動する。
13年前と同じ触れるだけのキス。
桜衣は何とも甘酸っぱい気持ちになる。
しかし、大人になったふたり……というか陽真はそれだけでは終われなかった。
一度唇を離すとすぐに覆いかぶさるようにして、しっかりと桜衣の唇を奪いに掛かる。
「ん……ちょ……結城」
桜衣は慌てて両手で彼の胸を押し返す。
人気は無いし、植栽の陰ではあるがここは外だ、誰かに見られたらと今更ながら焦りだす。
しかし、桜衣のささやかな抵抗は届かない。
「桜衣……」
彼は左手を桜衣の肩に乗せ右手をうなじから後頭部へ差し入れ支えながら何度も顔の角度を変えてキスを繰り返す。
艶めかしささえ感じる行為に体の芯が甘く溶かされそうになる。
「んっ、だめだってば……」
「ここで、また、桜衣にキスできるなんて……ヤバいな」
陽真はわずかに唇を離すタイミングで器用になにやら呟く。
(たしかに相当バカになってる……!)
涙目になった桜衣の本気の拳が彼のみぞおちに入るまで、彼の暴走は止まらないのだった。