完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
初めての朝
窓から朝の陽ざしが柔らかく入り部屋の中はボンヤリと明るい。
重い瞼をゆっくりと開くと彼の白いTシャツが目に入る。
腰のあたりには抱き込むように手が回されてた。
規則的に寝息を立てている整った顔は力が抜けていて、どこかあどけない少年ぽさを感じさせる。
(こういう可愛い顔を見てると中学の頃を思い出すなぁ)
まあ、昨夜は可愛いどころか大人の男の顔で桜衣を翻弄しまくったのだが。
桜衣はきちんとトレーナーを着ている。
昨夜陽真が着せてくれた気がするが……よく覚えていない。
ひとり赤くなりながら布団の中でゴロンと陽真に背を向けると本棚が目に入る。
小説や、図鑑のようなもの、専門書などさまざまなものが並んでいるが、その中に目に留まったものがあった。
陽真を起こさないように慎重に体を動かし、そっとベッドから抜け出す。
腰は重い上、足に力が入らないもののなんとか歩けてホッとする。
本棚に近づき、ずっしりとした重みがある一冊を取り出す。
「この写真集……懐かしい」
昔、生徒会室で陽真が見せてくれたイタリア建築の写真集だ。
(考えてみればこんなに重い本良く学校まで持ってきてくれたなぁ)
ただでさえ剣道の防具やらで荷物が重かっただろうに。
写真集をデスクの上に置きしばらくパラパラと眺めていると、後ろのベッドがギシリと言う音を立てる。陽真が目を覚ましたようだ。
「桜衣、起きてたのか……おはよう」
「おはよう」
何となく気恥ずかしくて、振り返らずにそのままでいるとベッドから降りた陽真が近づき、後ろから桜衣の腰に手を回してそっと引き寄せられた。
「体、大丈夫か?……優しくするって言ったのに、無理させたな。ごめん」
「……うん。大丈夫だよ」
背中に彼の体温を感じ、恥ずかしいながらも穏やかな気持ちになる。
「この写真集覚えてる?昔結城が見せてくれたの」
「もちろん、覚えてるよ。桜衣はヨーロッパの建築が好きって言ったから見せたくて学校にこっそり持って行ったっけ。いつか一緒に行きたいな、イタリア。新婚旅行でもいいな」
「それいいね!結城詳しいから色々案内してもらえるし」
是非イタリアの教会や美術館にも行ってみたい、バチカンにも行きたいし。パスタやワインなど、食べ物もおいしそうだ。彼と行けたら楽しい旅になるだろう。想像するとワクワクしてくる。
「――なぁ桜衣」
「うん?」
「もういい加減、俺の事名前で呼ばないか?」