完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
午後、東京に向かう列車。
空いた車内のボックスシートに並んで座るにふたりの姿があった。
結局ガッツリ体力を削られた後、疲労した体に鞭打って、片づけや身支度に慌てる羽目になった桜衣は少々機嫌が悪かった。
「乗換の時に桜衣の好きな駅弁何でも買ってあげるし、グリーン車指定したから」
彼は無理をさせた自覚があるのか、婚約者のご機嫌取りに余念がない。
「グリーン車なんてもったいないのに」
ともあれ、予定よりだいぶ遅いものの、今日中に東京に帰れそうだ。
(それにしても、こんな形でまたここを発つなんてね)
桜衣は感慨深く窓からホームを眺めた。
改修されたため、駅の作りは記憶とは変わっていて、以前は無かったエレベーターが付いていたりするが、所々昔の佇まいを残している。
一度、喪失感と諦めを抱えながら去ったこの場所。もう来ることは無いと思っていた。
でも、時を経てここを訪れる事になり、今、未来を共にする人と一緒に発とうとしている。
置き去りにしていた少女の時間が、今の桜衣と重なって再び動き出す。
「いつでも帰って来ような……ふたりで」
隣の陽真が優しく笑う。
「……そうね」
桜衣も心からの笑顔を返す。
ホームに発車のメロディが流れると、ガタンという音を立て列車はゆっくりと動き始めた。
陽真に握られた左手には桜色のダイアモンドがそっと輝いていた。