完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
お互いの親族への挨拶もすぐに行った。
叔父の家に陽真を連れて行くと、何故か一家全員待ち構えていた。
叔母の蓉子の話によると叔父は『変な野郎だったら絶対結婚は認めない』と息巻いていたそうだ。
母の事もあり、桜衣がおかしな男に引っかかったら、と心配だったのだろう。
しかし、肩書もきちんとしている好青年が『桜衣さんとの結婚を認めて頂けないでしょうか』と真剣に頭を下げる姿を見て、『彼が恐ろしくイケメンだから、姉さんと同じく顔でフラフラしちゃたのかなと思ったけど、まっとうな男のようだ』と割とあっさりと認めてくれた。
蓉子も従姉妹の楓も『スーパーイケメンハイスペックリーマン!』とカタカナを連発して興奮していたが、涼だけは終始機嫌が悪かった。
『大好きな桜衣ちゃんがお嫁に行っちゃうのが嫌なのね』と蓉子は笑っていた。
しきりに『この家にいつでも帰って来ていいんだからね!』と言う涼はやっぱり可愛いのだが、陽真は『涼君はなかなかの強敵だな』と苦笑していた。
叔父の家の近くにある母の墓前で婚約の報告をすることも出来た。
陽真の両親にも挨拶をした。
医師で忙しい中、時間を作ってくれたふたりは桜衣を好意的に迎えてくれた。
自分の両親の事を桜衣の口から正直に伝えたが、陽真の言っていたように気にする事も無く、
『嫌じゃ無かったら私たちを本当の両親だと思って頼ってね……って言ってもふたり共忙しくてあんまり頼りにならないかもしれないけど』
『陽真、こんなに良いお嬢さん、逃げられないようにさっさと結婚してしまいなさい』
と柔らかい笑顔で言ってくれた。
陽真の持つ真っ直ぐな温かさを彼の両親からも感じ、桜衣はとても嬉しかった。
「いよいよ週末は引っ越しですよね、準備は終わりましたか?」
食後のコーヒーを飲みながら未来が言う。
「なかなか時間取れなかったんだけど、少しずつ片付けてたから何とかなりそう。金曜日はお休み貰って最後の荷造りをしようと思ってるの」
結婚式については来年の桜の咲く時期がいいねと話している。
病院建設PTとは別に、INOSEで海外との大口取引が進行している事もあり、しばらく陽真は海外出張も多くなりそうなのだ。
有能故に各方面から声がかかる。それこそ彼の伯父や従弟は我が社の幹部にしようと目論んでいる気がする。
桜衣は陽真に本当は建築設計の仕事に専念したいのでは、と聞いたことがある。
『元々日本でデザイン会社を作って独立したいという気持があったんだ。でも君と仕事をして現場を見てこの世界でのやりがいも感じた。ここしか出来ない経験も将来十分役立つと思ってるから、まずはINOSEで出来る事を頑張ってみようと思う』
やり切った先に違う事が出来るのならもう一度考えてみたい――と。
桜衣は彼がどんな道を選んでも、サポートするつもりなので、やりたいようにやって欲しいと思っている。
そんな訳で、結婚まで1年近くかかってしまう事になり、陽真は非常に不満そうだった。
桜衣は仕方ないと、今まで通りの生活を続けていたのだが、数か月経ったある日、
『もう無理。これ以上離れて暮らすの辛すぎる』と真顔で言い出した陽真に懇願され、彼と一緒に暮らすことになった。
その引っ越しが今週末になっているのだ。
「結城さんの家に桜衣さんが引っ越すんですよね」
「うん、2人で住んでも狭くはない程度の間取りがあるからね。それに通勤も楽になるし」
陽真の住むマンションは2LDKだが、各部屋も広いし収納もバッチリで立地も良い。会社に通うのも格段に楽になる。
物を少し整理すれば桜衣が転がり込んでも全く問題ないと思っている。
彼は新しいマンションに引っ越そう言ったのだが、忙しいし、今はそこまでする必要は無いと主張した。
――そう、今は。
「ちょうどウチのマンションの契約更新の時期だったので丁度良かったんだけどね」
「桜衣さん、それは言わずに『私もあなたと離れているの辛いの』位言ってあげれば結城さんは喜ぶんじゃないですか?」
「ふふ、それはキツいかなー」
未来がおどけて言うので桜衣も笑って答える。
以前よりはマシにはなったものの、やはり自分の気持ちを素直に言う事は難しい。
桜衣も陽真と忙しくて会えないのは寂しかったから、一緒に暮らせる事が嬉しいのだけど。