山神あやかし保育園〜天狗様の溺愛からは逃げられません!〜
 のぞみが今感謝の気持ちを伝えたい人たちは皆ここにいるのだから。
 こづえとサケ子が抱き合って泣いているのに目を留めて、のぞみの目からついに涙が溢れ出した。
 それを紅が人差し指ですくって、囁いた。
「ねぇのぞみ、すごく不思議な光景だね。あやかし達が涙を流して喜ぶなんて。私の妻はあやかし達を虜(とりこ)にする怪しい術が使えるようだ」
 のぞみは頬を染めてくすくすと笑った。
「それは紅さまではないですか?私はただアパートを借りに来ただけなのに、いつのまにか"お嫁さま"です」
 のぞみの言葉に、紅が肩をすくめた。
「必死だったんだよ。なんとかのぞみをここに留めておきたくて。今から思い返しても、なぜそう思ったのかわからないけど、とにかくどうしてもそうしたかったんだ。本当に不思議だよ、のぞみは。私はもうのぞみのいない世界では生きてゆけない」
 繋いだ手にぎゅっと力が込められる。その温もりに確かなものを感じながらも、のぞみは少しだけいじわるを言ってみたくなる。
「でも紅さまはいつも、あやかしは情が薄いとか気まぐれだとか言うじゃないですか」
 そしてわざと疑うような視線を送る。紅が神妙に頷いた。
「確かにそうだね。だからこそあやかしの間では"約束"は絶対なんだよ。でも簡単には約束をしない」
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