かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「──それじゃあ、立花さんの話を聞こうか」


そう促す立花さんの声に、怒りや戸惑いといった感情は感じとれない。

もうきっと二度と乗ることはないと思っていた奥宮さんの愛車の中。私たちは運転席と助手席で、再び肩を並べている。

寒くはないはずなのに、指先がやけに冷たかった。店を出る間際に奥宮さんが注文してくれたカフェラテの紙コップで暖を取りながら、私は彼の方を見られないままコクリと唾を呑み込む。


「……ずっと嘘をついていてすみません、奥宮さん。あなたとお見合いした“私”は、立花くれはじゃないんです」


それから続けて、言葉をしぼり出した。


「私の本当の名前は……立花、ことはといいます。立花くれはの、双子の姉です。私たちはずっと……あのお見合いの日から入れ替わって、名前を偽りながらそれぞれの相手の方と会っていました」


隣にいる奥宮さんは黙ったままだ。あまりのことに、言葉を失っているのかもしれない。

私は深く懺悔しながら、今にも浮かびそうになる涙を堪えてなんとか話を続ける。


「私たちは父が突然持ってきた縁談に困惑して、なんとか角を立てずにこの話をなかったことにできないかと考えました。そして思いついたのが、この入れ替わりです。……もともと父は奥宮さんたちからの要望を聞いてそれぞれ性格が合いそうな方をあてがうつもりでいたので、ならばその要望に合わない中身で会えば、円満に男性側からお断りいただけると思ったんです」


けれども予想外に、彼らは入れ替わった私たち(中身)の方で話を進めたいと申し出てくれた。

それは私たちに大きな混乱を与えて……なのにとても、幸福だった。
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