かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「初めて会ったとき、あんなに偉そうに奥宮さんの申し出を一蹴しておいて……本当は最初から、謝らなきゃいけないようなことをしていたのは私の方だったんです」


震える声音で吐き出しながら、紙コップを持つ両手に力がこもる。


「ごめんなさい……早く本当のことを言わなきゃってわかっていたのに、今日までずっと、隠していました。……だけど、これだけは、信じて欲しいんです」


視界が滲んできた。

……ダメだ。絶対に、泣いてはダメ。

私は、泣いていい立場なんかじゃない。ここで泣くのは、みっともなくて卑怯だ。

目もとに力を入れて必死に涙を我慢しながら、ひとつ浅めの深呼吸をする。
顔は、うつむかせたまま。結局奥宮さんと目を合わせず、私は言い募る。


「私は姉として、妹の幸せを心から祈っています。だから奥宮さんと会う中で、この縁談を破談にする必要性がないことに気づいていました。奥宮さんは、本当に、素敵なひとで……あなたになら、何の心配もいらずに大切な妹を任せられる。自分でも、ちゃんとそれをわかってたんです。……だけど……」


声の震えがひどくなる。それでも、心の内を吐き出した。


「だけど私は自分勝手な感情で、あなたと妹を引き合わせたくないと思ってしまいました。私は……奥宮さんが、好きなんです」


運転席にいる彼が息を呑んだのに気づいていて、けれど、みっともなく懇願する。
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