かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「好きに、なってしまったから……だから、他の誰にもとられたくなくて、嘘をついたまま会い続けてしまいました。っごめん、なさい……最低だけど、でも、この気持ちは本当だから……っ」


だから、否定しないで。

そう続けようとした言葉は、喉の奥から出てくる前に引っ込んでしまった。
ずっと黙ったまま話を聞いてくれていた、奥宮さんが──突然私の頬を両手で挟んで、強引に自分の方へと向かせたからだ。


「本当に?」


至近距離で目の当たりにする真剣な眼差しに、息を呑む。

彼の形のいい唇が、さらに言葉を紡いだ。


「きみは──ことはは、俺のことが好きなの?」


初めて呼ばれた名前に、心臓が痛いくらい高鳴った。

熱のこもったその瞳にとらわれたまま、コクコクとうなずく。


「ほんとう……です。奥宮さんが……好き、です」


呆けたように答える私の言葉を聞いた奥宮さんが、満面の笑みをみせた。

それから私の手からあっという間に紙コップを奪ってカップホルダーに置いたかと思えば、今度はぎゅっと、私の身体を抱きしめる。


「うれしい。それじゃあ今度からは堂々と、きみを俺の婚約者だと紹介していいんだな」
「え……っま、待ってください、奥宮さん!」


熱烈な抱擁に一瞬硬直しかけたけれど、慌てて彼の胸を押した。

とはいえ、未だがっちりと肩と腰のあたりに手を添えられているので、相変わらず距離は近いままだ。

私の言動が気に入らなかったらしい奥宮さんは、僅かに拗ねたような表情で「なに?」と小首をかしげる。
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