かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
言葉を失って、ただ奥宮さんを見つめた。

表情から疑問を感じ取ったらしい彼が朗らかに笑い、そっと私の頬を指の背で撫でる。


「俺が、ことはを好きになったから」


今度こそ、心臓が止まるかと思った。

初めて彼が口にした決定的な告白は、相当な破壊力をもって私の心を揺さぶる。

目を見開いて呼吸を忘れる私に、さらに奥宮さんは言葉を続けた。


「別人のフリなんて、そうそう常にしていられるものじゃない。そもそもきみは嘘が苦手そうだし、俺といるときはほとんど素の状態だったんだろ? ……か弱いようでいて強くて、気遣い上手で、俺が触れるとすぐに赤くなって、美味しそうにごはんを食べながら笑ってくれて。そんなことはが本当にかわいくて、どうしても、欲しかった。入れ替わりに気づいても直接確認しなかったのは……情けない話だけど、下手に核心を突いてきみが離れていってしまうのがこわかったからだ。それにきみの性格上、何か事情があって始めたんだろうってことは想像できたし、きっとそのうち良心に耐えかねて自分から打ち明けてくれると思っていたからね。そのときまでは、気づかないフリをしようと思ったんだ」


それから彼は、あやしく目を細めて口角を上げる。


「もちろん、きみが何も言わずに俺の前からいなくなろうとしたら、そのときは許してあげる気はなかったよ。全力で追いかけて、何がなんでもつかまえて囲い込んで、他の男なんて見る余裕がなくなるくらいたっぷり愛して、もう俺なしじゃ生きられないようにどろどろに甘やかすつもりだった」


──よかった、逃げられなくて。

耳もとに落ちた不穏で甘ったるいささやきに、身の危険のためか、それとも彼の愛の深さを思い知ったためか、ふるりと無意識に身体が震える。

だけど不思議と、こわいとは思わない。それはきっと、自分に触れる彼の手が、ひたすらにあたたかく優しいからだ。
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