かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「私……本当はくれはと違って、メイクもオシャレも苦手で……こんな、味気ない感じなんですけど……がっかり、してませんか?」
「がっかりなんてするわけない。俺にとっては、どんな格好をしてたってことはなら魅力的に見えるよ」


迷うことなく即答され、思わず頬を染めながらたじろぐ。


「そんなふうに言うの……かっこよすぎですよ……」
「そりゃあ、きみの前ではいつもかっこつけてるからね」


拗ねたようなつぶやきにも、照れる素振りもなくあっけらかんと返された。

そのとき不意に思い出す。初めて会ったお見合いの席で、真剣な表情をした彼に言われたセリフ。


『今日はせっかくの見合いなのに、俺はきみにかっこ悪いところしか見せられてないんだ。頼むから、挽回させて欲しい』


挽回、どころじゃない。
奥宮さんは、私にはもったいないくらいとびきり魅力的なひとだ。

不釣り合いだと、ふさわしくないと思うのに──彼の熱い眼差しは確かに自分が望まれていることを雄弁に思い知らせて、そんな不安をかき消してしまう。


……どうしたって、敵わないなあ。

もう、観念するしかない。彼に全面降伏した私は悩ましい吐息をひとつこぼすと、目の前にある首もとへと抱きついた。
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