かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ずっと……私はとっくに、奥宮さんの術中だったんですね」


赤い顔を隠すように、奥宮さんの首筋へひたいを擦りつける。

彼は私を抱きしめ返しながら、楽しげに答えた。


「人聞きが悪いな。絆されてくれないかなって思いながら、そうなるように仕向けてただけ」
「それって充分、悪いひとですよ」


しがみついた体勢のままうらめしく言えば奥宮さんがまた笑って、くっついた場所から振動が伝わる。


「嫌いになった?」


笑い混じりの、試すような口調だ。
全然、ひと欠片も不安になんて思っていない、そんな余裕綽々の声音。

悔しいけれど私は顔を上げ、そっとその耳もとに唇を寄せる。


「大好きです」


私の答えを聞いて、奥宮さんがうれしそうに顔をほころばせた。
そのまま自然とふたりの顔が近づいて、唇が重なる。

何度も何度も角度を変えながら、深く浅く、キスを繰り返した。
恥ずかしいけれど幸せで、このままずっと奥宮さんの腕の中にいたくて──けれどもハッと大事なことを思い出した私は、彼の胸を叩いてキスを中断させる。


「っま、待って、くれはに連絡しなきゃ……!」
「え?」


唇は解放してもらえたもののしっかり私の身体に手を回したままの奥宮さんが、きょとんと目をまたたかせた。

すべてを打ち明ける決意をした私のことを心配したくれはが今この近くにいることを伝えれば、彼はあっさりと「じゃあ、ここに来てもらおうか」と答える。
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