かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「当然、正式なものはまた改めてするつもりだからご心配なく。近々立花家にも挨拶にうかがわせてもらうから、そのときはよろしくね」


なんだか奥宮さんのセリフにいろいろツッコミたいところだけど、ここまでの怒涛の展開ですっかりキャパオーバーしてしまった私にその余力はなかった。

微笑みを浮かべながら、それでも思いのほか真面目な声音で話した彼に、くれはもふっと頬を緩める。


「はい、お待ちしてます。……よかったね、ことは。おめでとう」
「くれは……」
「本当に、よかった。私のことは気にしなくていいから、思いっきり幸せになってね!」


私の両手を握りしめ、明るくそう言ってくれるくれは。

だけどその笑顔が、やっぱりどこか寂しげに思えて……私は、うまく言葉を返すことができない。


「ん? くれはさんは、瀬古さんと話が進んでたんだろ?」


私たちのやり取りを見て思うところがあったのか、奥宮さんが不思議そうに小首をかしげた。

少し驚きながら、彼を振り返る。


「奥宮さん、瀬古さんのこと知ってるんですか?」
「ああ、まあ。仕事で何度か会ってるから」


そっか……そもそもお父さんと奥宮さんは仕事の関係で知り合ったけど、お父さんと同じ職場の瀬古さんとも顔見知りだったんだ。
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