かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
納得しつつ、隣のくれはをチラリとうかがった。

特に取り乱すこともなく、彼女はあくまで落ちついた様子で口を開く。


「私たちの方は破談になったので、お気になさらず。……私がずっと嘘をついていたことを知って、瀬古さんはとても怒っていましたから。というか、怒るのが普通なんですけどね。奥宮さんは特殊すぎです」


くれはが呆れたような眼差しを送ったその先で、奥宮さんは顎に手を添えながら束の間何か考え込んでいた。

そうしてふと、再びくれはに顔を向ける。


「それは、いつの話?」
「え? 土曜の夜、ですけど」
「ふぅん……?」


つぶやいて、奥宮さんはまた何やら思いめぐらせている様子だ。

……どうしたんだろう?
彼の態度を疑問に思った私が声を上げるより早く、奥宮さんは考える姿勢を解いてこちらへと向き直る。


「心配しなくても。くれはさんの方も、きっとなんとかなるよ」
「なんとかって……」


訝しげな反応を見せたくれは。私も、戸惑って彼を見つめた。

そんな私たちへ、奥宮さんはイタズラっぽく笑いかける。


「きみたち姉妹はいい意味で、いつも俺たちの想像を超えてくるから」


意味深で不可解なそのセリフに、私とくれははわけがわからず顔を見合わせたのだった。
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