かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
やわらかな風が吹いて、生ぬるい空気が髪を揺らす。
7月初旬の日曜日。私とくれはは、とあるカフェのテラス席にいた。
「──あーあ。やっぱり、今思い出しても腹立つなあ」
会話の切れ間にふと思いついた様子でつぶやいたくれはが、声音と同じ拗ねた表情でアイスミントティーのストローをかき混ぜる。
いくらパラソルが日陰を作ってくれているとはいえ、正午を30分過ぎた頃のテラス席はそれなりに暑い。私も残り少ないカフェオレのグラスに手を伸ばしながら、彼女のセリフに首をかしげた。
「なぁに? もしかして、また智遥さんのこと言ってるの?」
「だって、あのときの私めちゃくちゃ落ち込んでたのにさあ~! それを嘲笑うかのような余裕の表情で、わざわざ意味深発言して……! 結局あの場では、理由教えてくれなかったし!」
ただでさえ暑いというのに、興奮気味のくれはの周りはさらに気温が上がっていそう。
私は苦笑して、当たり障りのない言葉で彼女を宥めた。
「まあ……大事なことだから本人の口から直接聞いた方がいいと思ったんだよ、きっと」
「あの腹黒が、そんなお綺麗な親切心を私に見せると思う?? 絶対、私が一喜一憂する姿を楽しんでたとしか思えないわ……!」
『腹黒』って……うーん智遥さん、ひどい言われよう……。
険しい表情で悪態をつきながらテーブルに置いたこぶしをギリリ、と固く握るくれはを眺め、私はさらに苦笑いを深めた。