かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
嫌ってる、というほどではないと思うんだけどなあ……実の妹が婚約者に対してわかりやすく苦手意識を持っていることは、隠しもしない彼女の態度から当の婚約者──智遥さんも承知の事実だ。

そしてそれを困るどころか楽しんでいる節があるから、ますますくれはが苛立つという悪循環。……今度また智遥さんに、くれはをからかうのはほどほどにしてって注意しておかなきゃ。


『心配しなくても。くれはさんの方も、きっとなんとかなるよ』


──約2ヶ月前の、あの夜。

訳知り顔で智遥さんがそう言った、まさに次の日のことだ。くれはが働くフラワーショップに突然瀬古さん──哉太(かなた)さんが現れて、くれはにプロポーズをしたのは。


『実は月曜に仕事で銀行に行ったとき、瀬古さんと偶然会ったんだよ。彼がもうひとりの見合い仲間っていうのは知っていたし、世間話的に「そちらの方はどうですか?」って軽く振ってみたら「近々正式にプロポーズするつもりです」って話してたから。土曜に入れ替わりのことを知ったうえでのあの様子なら、きっと大丈夫なんじゃないかと思ったんだ』


まあ、あのときは彼が入れ替わりの件を知っているかわからなかったから、そのあたりは触れずに会話してたんだけどね──なんて、くれはと哉太さんが上手くいったことを電話で報告したとき、智遥さんはさらりと答えた。

つまりあの水曜の夜の時点で、彼は哉太さんがくれはを嫌いになったわけじゃないと知っていたんだけど……それをその場で教えてくれなかったことを、くれはは未だに根に持っているみたい。

うん、でもこういうデリケートな話はね、やっぱり本人から聞いた方が説得力があるし……まあ、くれはの気持ちもわからなくはないんだけど。

それにしたって、智遥さんはくれはに対して妙にからかいがちというか、遊んでる感があるのは否めない。本人はかわいがってるつもりらしいのがまた……すれ違いなんだよなあ……。
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