かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「まさかその『腹黒』って、俺のこと?」


不意に会話に割り込んできた声の主を、私とくれはは同時に振り向いた。

その先にいたのはやはり、声で予想した通りの人物で。私は反射的にパッと顔を明るくし、逆にくれはは顔をしかめる。


「智遥さん!」
「奥宮さん……」
「お、今のシンクロっぷり、まさに双子って感じでいいもの見たな」


名前を呼ぶタイミングまで被った私たちに、智遥さんはニッコリ笑ってそんなことを言う。

遅れて気づいたけれど、彼の斜め後ろにはもうひとり別の男性の姿があった。私よりも早く、くれはが声を上げる。


「あれ、哉太! 奥宮さんと一緒だったんだ?」
「こんにちは。そこの横断歩道のところで会いました」


短い黒髪にメタルフレームのメガネ、姿勢のいい立ち姿。
くれはの言葉に礼儀正しく応えたこの彼こそが、妹の婚約者である瀬古哉太さんだ。


智遥さんと私の気持ちが通じ合ったこと。哉太さんがくれはにプロポーズし、それをくれはも受け入れたことで、私とくれはにはいよいよお父さんたちに入れ替わりの事実を伝えなければならないときが訪れた。

もう、ものすっごく怒られた。怒られたけど、それでもその場に同席してくれた男性陣の援護のおかげで、たぶん少しはマシになったんだと思う。
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