かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
『まあ、奥宮くんと瀬古くんが許してくれているのなら、これ以上はもう何も言わない。……母さんも、伝えておくことはないか?』


深々とため息を吐いてから、お父さんはソファーの隣に座るお母さんに視線を向けた。

さすがに今回はおっとり母からも雷が落ちるだろうな……とビクビクしながら次の言葉を待つ私たち双子に、お母さんはいつもの調子でのんびりと口を開く。


『そうねぇ……奥宮くんも瀬古くんも、お肉は好きかしら? 今晩すき焼きにしようと思うんだけど、男の子ってどれくらい食べるのかわからなくて』


直後、お父さんがひたいに手をあててうなだれた瞬間を、娘たちはバッチリ見ていた。

呆気に取られる我が家の息子候補たちに『ふたりはたくさん食べる方?』、『好き嫌いはある?』なんて質問を(本人は至って真面目に)ポンポン続けるお母さんは、こんな場面でもやっぱり通常運転だった。間違いなく、立花家で最強なのはお母さんだと思う。

それから今日まで、忙しなく時は流れた。
時間を見つけては大好きな彼と逢瀬を重ね、私とくれははそれぞれ男性側のご家族にも挨拶に行って、一応は結婚を前提としたお付き合いを認めてもらった。
くれはは誕生月である11月、私は来年の春に式を挙げる予定で、互いに職場にも報告済みだ。

なんだか、つい2ヶ月ちょっと前までは信じられないくらいに、いろいろなことが変化している。人生って何があるかわからないよねぇなんて、ときたまくれはと言い合っている今日この頃だ。
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