かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
智遥さんはふと表情を苦笑のようなものに変え、ポンと私の頭に手のひらを載せた。


「ごめん、内緒。ちょっと恥ずかしくてかっこ悪いから」


そのささやきに、私はむうっと唇を尖らせる。


「智遥さんはいつもかっこいいし、そうじゃなくても私は好きですよ……」
「はは、ありがとう」


今度は自然に、うれしそうな笑みをこぼして、智遥さんが私の左手を取った。

握り込まれた指のひとつには、つい最近彼に贈られたばかりの、美しい宝石を冠したリングが陽射しを受けてキラキラと輝いている。


「そのうち教えてあげるよ。ちゃんと逃げないで、俺の奥さんになってくれたらね」


少し意地悪な目をしてそんなことを言う彼に、私はきょとんとまばたきを繰り返してから頬を緩めた。


「なら、問題ないですね。私は今だってもう、“奥宮ことは”になる日が待ち遠しくて仕方ないんですよ」


一瞬不意を突かれた表情をした智遥さんが、すぐにくしゃりと顔をほころばせる。

そうして繋いだ私の手を持ち上げると、いつかのように指先へキスを落とした。


「うーん、困ったな。今すぐ攫いたいくらいかわいい」
「ふふ、困りましたねぇ。私はおなかが空いてるし、水族館も行きたいです」
「それ、ふたりきりでもできるよね?」
「魅力的なお誘いですけど、却下です。今日は4人で、ですよ」


ちょっと本気の目をして丸め込もうとしてきた彼をあしらって、私はまたくすくすと笑う。

もう、嘘をつかなくても、大好きなひとの隣にいられる。その幸せを噛みしめながら、私は青空の下、繋がった手をぎゅっと握り直した。










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