かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ああ、すまない。嫌味を言ったつもりではなかったが、気を悪くしたなら謝るよ。……でもそうか、特定の相手はいないのか……」


後半のセリフは独り言のようにつぶやくと、改めて立花専務は俺に半身を向け、じっとこちらを見据えた。


「実は、私には妙齢の娘がふたりいてね。我が子ながらそれぞれに気立てのいい娘だと思うのだが、なかなかそういう相手に恵まれなくて。父親としては心配なんだ」
「……ああ、そうなんですね」


なるほど、そうきたか。
ここまで聞いて、この男性の言いたいことは察しがついた。

……つまり俺に、娘をひとりもらってくれないかという提案だろ。
面倒なことになった。しかし相手は取引のある銀行の役員だ。無碍にはできない。

一応はにこやかな相づちを打った俺へ、あくまで慎重に、立花専務は話を続けた。


「無理強いするつもりはない。これはただの私個人からの頼みであって、会社同士の付き合いとはまったくの無関係だと先に言っておこう。奥宮社長さえよければ、うちの娘と会うことを少し考えてみてくれないだろうか? こうして話すのはまだ数回目とはいえ、私はきみになら娘を任せても構わないと思うくらい、信用に足る人物だと判断している。勝手な話だとはわかっているんだが……」


本当に、勝手な話だ。
いくら会社の付き合いは無関係だと言われても、こちらが断りにくい立場なのは変わりない。


「……えぇっと。そうですねぇ……」


どう断るのが1番波風を立てないか、頭をフル回転させながら言葉を探す。
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