かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ああ待ってくれ、もっと大きく写っているのがある」


娘たちがそれぞれ撮っていたものを送ってもらったんだ、などとつぶやきながら若干覚束ない手つきでスマートフォンを操作する立花専務に、『家族仲がいいんだな』という印象を受ける。

自分の家庭環境と無意識に比べ、うらやましい、だなんて感情は今さら抱かないが──それでもやはり、少し眩しく思えた。


「これならわかるかな?」


言いながら再び向けられた画面を覗き込んだ俺は、つかの間停止した。

そこに写ってたのは、絶世の美女──ではなく、鎖骨ほどの長さの髪にあまり化粧っけのない顔、着ている服も落ち着いた色合いでまとめている、控えめな雰囲気の女性だった。


「こっちは姉のことはだ。これは今年の年明けすぐ、妻の母が喜寿を迎えた記念に食事したときのもので──」


立花専務の話を一応は耳に入れつつも、俺は画面を見つめたままでいる。

正直、どこにでもいそうな風貌の女性だ。なのに俺は、その写真から目が離せなかった。

食事が並んだテーブルの前で、こちらに向かってはにかんだ笑顔を見せている彼女。
手もとにあるグラスの中身は、アルコールなのだろうか。上気した頬に少しとろんとした目が、妙にコケティッシュで胸が疼いた。

……かわいい。俺、こういうタイプが好みだったのか。
まさかこんなタイミングで自分の嗜好に気づかされるとは思わなかった。気の利いた感想を口にできる前に、立花専務が再びスマートフォンをいじって写真を変えてしまう。
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