かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「これが、妹のくれは。ちなみにふたりとも歳は28歳です」
「……そうなんですね」


たしかに……似てるな。でも、妹の方が着飾るタイプらしい。化粧や服装は全然似ていなくて、見た目の印象がかなり違う。
さっき姉の方を見て感じたこそばゆい気持ちは、妹からは受けなかった。

28歳か……。
まだまだ結婚を急ぐような歳ではないと思うけれど、でもまあ、男親としては心配なのだろう。


「ちなみに奥宮社長としては、社交の場に連れ出しても物怖じしないような奥方だと助かるのだろうか?」
「え? えぇまあ、そうですね……社交的で明るい性格の方なら、まあ、本人の負担も少ないかもしれませんね……」


──でも私個人は別に、違っていても。
そう続けかけた俺よりも早く、立花専務が声を上げる。


「ああ、なら、くれはが適任ですね。この子はずっと接客業なのである程度のマナーも身についているし、人見知りもしない性格ですから」
「……なるほど、それは、心強いです」


心強いって、なんだよ。自分の口から出たセリフに、胸の内で毒づく。
こんなときにも反射で人当たりのいい笑みを見せながら相手に同意してしまう、処世術が染みついた自分の要領の良さが憎い。

……内向的だって、人見知りだって。もしもそれが自分の惚れた相手ならば、わざわざ人前になんて出さず、俺だけの腕に閉じ込めてかわいがればいいだけだ。
つい先ほど自らの脳内で浮かべた打算とは矛盾しているとわかっていながら、無意識に考えてしまうのを止められない。


「決まりですね。奥宮社長とくれはが、互いに気に入るといいのですが」


直感で好意を抱いたのは違うひとなのに。
先手を打たれた俺は、それ以上何も言うことができなかった。
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