かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~

「おねえちゃん、ばいばい」
「うん! バイバイー」


うれしそうに顔を綻ばせて小さな男の子に手を振る彼女の姿を、傍らでじっと見つめる。

初対面の見合い当日から仲人である立花専務を経由して連絡し、こぎつけた初デート。彼女が好きだと言っていた花を見るため訪れたこの場所を、彼女はとても楽しんでくれているように思う。


ホテルのラウンジで初めて顔を合わせた彼女は、俺の想像の斜め上を行く人物だった。

聞いていたよりずっと落ちついた印象を受け、実際、きちんと育てられた娘さん、といった礼儀正しさを持っていた彼女。
そのくせちょっと抜けているというか、不意打ちでストレートに人の容姿をほめてくるようなアンバランスさもあって。
そしてこちらの失礼な物言いにはそれまでの落ちついた印象とは一変し、激しく感情を剥き出しにしてハッキリと自身の意見を伝えてくれた。

あのまま帰られてしまっても仕方のない状況だったが、それでも彼女は、俺の弁解を受け入れてくれて。
しかも、直前までの勇ましさから一転、別人のようなしおらしさでもじもじと謝罪までするから、ついこちらも完全に警戒を解いて笑ってしまった。

事前の調べでそれなりに男性経験がある方だと思っていたのに、少し目が合ったりからかっただけでもやけにウブな反応を見せてくれる。本当に、一緒にいて飽きなかった。
時間が経つたびもっと彼女のことが知りたくなって、気づけば本気で口説こうとしている自分がいた。

逃げるようにいなくなってしまった彼女を、どうにかして捕まえたくて。当初の目論見なんてかなぐり捨てて、縋る思いで彼女の父親に連絡した。
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