かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
自分の中の引っかかりがなくなったら、あとはもう、いかにして彼女──ことはを手に入れようかと、そればかりだった。

どういう理由で彼女たちがこんなことをしたのかはわからないが、きっと、この入れ替わりは長くは続かない。
それは少なくとも、俺が見た“立花ことは”という人物の性質上……そう遠くないうち、良心の呵責に耐えかねて俺にすべてを打ち明けてくれるだろうと予想できたから。

なかなか嫌味な男だという自覚はあるが、ことはが俺のことを憎からず思ってくれていることはなんとなく気づいている。
けれども自分を“立花くれは”だと偽っている負い目からか、俺に対してどこか一歩引いているところがあるように思えるのだ。

それでは困る。俺は彼女を恋人──どころか、妻にしてしまいたいと考えているのに。

このコを手放したら、俺はきっと一生後悔する。昔から自分の中に根付いていた“結婚”に対するおそれや不安なんて、クソ喰らえだ。

ことはを誰にも取られたくない。彼女の隣に在るための確固たる権利を、自分のものにしたい。

『ふわぁ……美味しい……溶けた……』

目の前にいる男がそんな強烈な願望を胸に秘めているとは知る由もなく、食後のデザートを楽しむことははとろけるような甘い笑顔をみせる。

今はただ自分のテリトリーに彼女がいることで満足しておかなければと、俺はいとおしく彼女を見つめるのだった。
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