かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさに、目が覚めた。
そうして見慣れた自室のベッドの上、自分の腕の中に最愛の人物のぬくもりがあることを確認して、無意識に頬が緩む。
『約束するよ。お互いの家族に結婚を認めてもらうまでは、キス以上のことはしないから』
気持ちを確認し合って、晴れて恋人同士となったその日。どうやら男性経験が乏しいらしいことはに対し、俺はできるだけ誠実な眼差しを向けながらそう伝えた。
本音では、すぐにでも深く身体を繋げてしまいたかったが……怯えさせて逃げられてしまっても困るし、そもそも彼女の嫌がることはしたくない。
そんな思いから充分に心の準備をしてもらう期間として提示したその約束が、ついに無効となったのは──まさに、ゆうべのことだ。
昨日の晩、俺たちふたりは【Billion】現社長である父のもとを訪れた。
俺の生まれ育った戸建ての家は息子ふたりが独立した時点で「ひとりには手に余る」と父が売り払ってしまったので、現在父はマンション住まいをしている。
とはいえ、それでもひとり暮らしには広めのリビングで久しぶりに父と向き合った俺は、その場で父に結婚の許しを乞うたのだ。
あらかじめ「紹介したい女性がいる」と連絡はしていたが、やはり父はいい顔をせず……いつもの調子でことはの前でも高慢な態度を取ったときには、心底嫌気が差した。
そうして俺が、いつものように強い口調で反発──しようとしたのだが、その前にことはが毅然と対応してみせたため、俺も父本人も大いに面食らってしまう。
控えめに見えて思いのほか胆力のある彼女に、どうやら父も一目置いたらしい。
その後も細々と小言は吹き込まれたが、なんだかんだで俺たちの結婚は認めてくれたようだ。