かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「っぷは、っは、はあ……っ」


たっぷりとことはの唇を堪能したのち、ひとまず解放した。

荒い呼吸を繰り返しながら、彼女はいつの間にやら自分を組み敷いている俺を涙目で非難する。


「なっ、なんですかっ、いきなりこんな……っ」
「だってことは、忘れてるみたいだから。昨日俺に、たっぷり愛されたこと」
「へ……?」


すり、とその火照った頬を指の背で撫でながらしれっと答えてみせれば、一瞬呆けた顔をしたことはがすぐにまた赤面した。

この表情は、ゆうべのイロイロを思い出したんだろうなあ。俺はますます口の端を上げて、意地悪くささやく。


「また、一から教えてあげようか。今度は寝ぼけてても忘れられないように」
「っえ、あ、待って、智遥さ──」


ベッドについた腕を曲げてことはに近づき、またあっさり呼吸を奪う。

足りない。彼女に対してだけ覚える俺の中の飢餓感は、こんなものじゃ全然満たされない。


『他の男なんて見る余裕がなくなるくらいたっぷり愛して、もう俺なしじゃ生きられないようにどろどろに甘やかすつもりだった』


もしもことはが俺から離れようとしたときには、どんな手を使ってでも籠絡するつもりだった。

だけどきっともう、彼女なしで生きられないのは俺の方だ。

甘くていとしい婚約者に絶対的な忠誠を誓いながら、重ねた両手を絡めた。










/END
2020/9/7
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