かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
……だから。


「だから……“私”じゃ、とてもじゃないけどつり合わないよ」


言いきって、私は笑みをみせたつもりだった。

だけど思うように表情が作れなくて、へにゃりと情けない顔になっていたかもしれない。

そんな私のできそこないの笑顔を見たくれはは、少しの間難しい表情で黙っていた。
かと思うと何かを決意したように、うつむいていた顔を上げる。


「ことは。また入れ替わって、会って来よう。奥宮さんたちと」
「えっ?」


目を丸くすれば、くれはがニッコリ笑う。

そうして固く閉じていた私の手のひらを優しく解くと、その中でくしゃくしゃになっていた紙切れを抜き取って。
代わりにくれはは自分が持っていた奥宮さんの電話番号が書かれたメモを、私の手に握り込ませる。


「ほら、今日のお見合いで顔を合わせたのって、せいぜい2時間くらいでしょ? 初対面からのスタートですぐ『この人とは合わないな』っていきなり思わせるのは、やっぱりちょっと無理があったのかも」
「くれは……」
「きっともう1回くらいデートしてみたら、気づいてくれるはず! そしたらこの入れ替わりのこともお父さんたちにバレないまま破談にできて、全部丸く収まるよ!」


明るい調子で、くれはがそう言った。

……ほんとに? ほんとに、それでいいのだろうか。

そのとき覚えた感情は、小さな違和感だ。
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