かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ほんとに、ここでいいの?」
「はい、大丈夫です。もう歩いてすぐなので」


自宅から徒歩10分もかからないコンビニの駐車場に車を停めてもらい、私はシートベルトを外す。

奥宮さんは家の前まで送ってくれると申し出てくれたけれど、迎えのときと一緒でなんとかそれは遠慮することができた。


「今日はありがとうございました。とても……楽しかったです」
「こちらこそ。そう言ってもらえてよかったよ」


姿勢を正し改めてお礼を伝えた私に、運転席の奥宮さんが笑顔で返してくれる。

あれからすぐにツツジヶ丘公園を出て、ここへ帰ってきた。
今はまだ外も明るい17時前。どこまでも健全な、大人のデートだった。


「今度は昼間っからワイン、楽しみにしてる」


顔をほころばせたままの彼が、イタズラっぽく言う。
それがあのトラットリアでの約束の話だと気づいて、きゅうっと胸が締めつけられた。

……嘘で塗り固めた自分は、このひとの隣にふさわしくない。
奥宮さんはこんなにも心をさらけ出してくれているのに、私は何もあげられていない。
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