かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
1番大切な真実は隠したまま、私はどうしてもこの男性と離れがたくて、心のままの言動に出てしまった。

奥宮さんの反応がこわい。燃えるように熱い頬と早鐘を打つ心臓を厭わしく感じながら、思わず目をつぶると。


「……まいったな」


そうポツリと聞こえたと思うと、伸びてきた指先が熱を持った頬を一瞬掠め、息を止めた。

ゆっくり顔を上げた私は、自分を見下ろす驚くほどの熱情を含んだふたつの瞳に気づいて、動けなくなる。


「大切に、待っていてあげたいと思ってるのに──もう、全部飛び越えて、無理にでも俺を選ばせたくなる」


言いながら奥宮さんは私の左手に自分の右手のひらを重ね、親指で甲のあたりをなぞった。

そのじれったい動きにビクンと身体が震えて、また体温を上げさせられる。けれどもそれ以上彼が触れてくることはなく、大きな手のひらはゆっくり離れていった。

は、と無意識に温度の高い吐息をこぼした私に、奥宮さんがまた口もとを緩める。


「……また、連絡する」


たぶん私は声を出せないまま、赤い顔でコクリと小さくうなずいたと思う。
気づけば助手席を降りて、気づけば、走り去る彼の車を見送っていた。

今日新たに見せてくれた奥宮さんの表情を、声を、仕草を思い出すたび、胸が甘く疼く。
最低な自分の選択をわかっていながら、それでも、急速に育っていく恋心は止められなかった。
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