かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ねぇことは、私先にお風呂入っちゃってもいい?」


ついでとばかりに訊ねられ、私はうなずく。


「うん、いいよ」
「ありがとー」


そう言ってくれはは、そのまま部屋を出て行こうとした。
見送りかけた背中に、私はとっさに声をかける。


「あ。待って、くれは」
「ん?」


呼んだのは自分のくせに、ドアノブを持ったまま振り返った妹を見て、一瞬言葉に詰まった。

そんな私の様子に、くれはが小首をかしげる。


──3日前の、日曜日。私たちはお互いにデートから帰ったあとも、首尾はどうだったか、無事に当初の目論見通りになったのかという類の話を、一切しなかった。

どう話すべきかと悩んでいた私に、くれはは何も訊ねては来なかったし……私の方からも、あえて話を振ることはなくて。

たぶん、くれはも私と同じ。きっとお見合い相手の男性に、何か思うことがあるのだろう。

血を分けた姉妹だからこそ察することができたのかもしれないけれど、日曜日以降くれはは妙に元気だったり、かと思えば落ち込んでいたりとどこか情緒不安定で、まるで自分を鏡で見ているかのようなのだ。

おそらくそれは、くれはも私に対して思っていることで……何を言っても、何を言われても、それらはすべて自分に返ってくる言葉だから、私たちはお見合いに関することは互いに何も訊かず、ただ当たり障りのない会話ばかりをしている。

……それが間違ったことだというのは、充分に理解しているはずなのに。
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