かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
好き。
私は、奥宮さんのことが大好き。
嘘つきな自分は、彼に相応しくないってわかっているのに……それでも、どうしたって惹かれてしまう。

熱心に私を見つめる瞳から逃れるように、目を閉じた。

自分の気持ちを自覚しても、素直に言えるわけなんてないから──だから、ただ目を閉じて、繋いだ手に力を込めた。


「……ずるいなあ」


昔からずっと相手の顔色をうかがいながら過ごしてきた私が、誰かからそんなふうに言われたのははじめてで。

だけど不思議と、胸がひやりと冷たくなるような感覚はなかった。

たぶんそれは、そのセリフを吐息混じりにつぶやいた奥宮さんの声が──まったく困った様子もなく、むしろうれしそうにも聞こえる優しい声音をしていたからだと思う。


気配が、近づく。
奥宮さんの上品でさわやかな香りをすぐ目の前に感じて、次の瞬間唇にあたたかな何かが触れた。

感触をたしかめるみたいにやわらかく重なったそれは、たった3秒ほどで離れてしまう。

だけど、遠ざかったぬくもりに寂しさを覚えた直後──また、唇が塞がれる。


「っ、……んん」


今度は、触れるだけの軽いものじゃない。角度をつけて重ねた唇を味わうように、擦り合わせる。

私の腰にあった手が、いつの間にか頬へと移動していた。その指先が、つうっと顔の輪郭をたどって顎へと下りる。
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