かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
驚きながら問い返せば、どこか得意げな、それでいて少し寂しそうな笑みを見せた。


「気づくよ。ことはのことだもの」


続けて「それにさっき『くれは“も”瀬古さんと会ってたの?』って言ってたし」としたり顔で言われ、自分の迂闊さに苦笑いだ。

不意にくれはがタオルを持っていない左手をこちらに伸ばし、膝に置いていた私の両手にぎゅっと重ねる。


「もし……奥宮さんに入れ替わりのことを話すときは、私も一緒に行くよ。全部私のせいだって、ちゃんと説明するから。絶対に、呼んでね」


痛々しい赤い目をしながら必死な様子で話すくれはの姿に、私はふるふると首を横に動かした。


「そんな……全部くれはのせいだなんて、そんなことないよ。やるって決めたのは私で、そのあと入れ替わりを続けたのも、私の意思なんだから」
「でも……だって、それじゃあ、ことはも」


くしゃりと顔を歪めるくれはを安心させるように、精一杯明るく笑ってみせる。


「瀬古さんに知られた以上、奥宮さんにも入れ替わりのことは伝える。だけどそれは、私がひとりで話すよ。だって、奥宮さんにずっと嘘をついてまで会いたいと思ったのは、私のワガママなんだから」


そう、ハッキリと言い切った。

こちらに譲る気がないことを察して、くれはは目を伏せると小さくため息をつく。
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