かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「……わかった。でもせめて、話をするときは近くにいさせて。必要なときすぐ出ていけるように」
「うん。それでいいよ」


うなずいた私を確認し、へにゃ、とくれはが苦笑した。


「ことはって、普段は一歩引いた控えめなところで空気を読みながら周りをフォローしてるけど……いざとなったら、躊躇しないで堂々と自分の意見を言えるよね。優しいけど、実は頑固だし」
「え……そうかな」


思いがけない言葉に小首をかしげれば、目の前の妹は久しぶりの穏やかな笑みをみせる。


「うん、そうなの。昔から、ことはのそういうとこすごいなって思って尊敬してる」


まさか、そんなふうに思ってもらえてるなんて考えもしなかった。

私が目を丸くすると、くれはは私の手に重ねたままだった手もとに視線を落とす。


「奥宮さんは……ことはのこと、許してくれるといいなあ。勝手だけど、ことはたちだけは、うまくいって欲しいよ」
「……何言ってるの。くれはだって、まだ……」


思わず口を開いた私に、力なく微笑む。


「私は、もういいんだ。……もう、大丈夫」


全然、信憑性のない表情だ。

それでも私の手を握りしめて気丈に話すくれはに、私はこれ以上、何も言うことができなかった。
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