かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「……ッ!!」


ハッと、勢いよくまぶたを開ける。

視界に映った天井は、見慣れた自室のもので。自分がベッドの上で仰向けに横たわっていることを認識した私は、ついさっきまでの体験は夢の中での出来事だったのだと少し遅れて理解した。


「……はー……」


詰めていた息を深く吐き出しながら両腕を持ち上げ、手のひらで顔を覆う。

ひんやりと肌に触れたその両手は、小刻みに震えていた。寝起きだというのに、心臓もこれ以上ないくらい早鐘を打っている。

目を閉じて光を遮断すれば、つい先ほど奥宮さんの綺麗な顔と声で放たれた冷たい言葉が、リアルによみがえった。


『もう二度と、俺の前に現れるな』


ぎゅ、と、顔の上の両手を握りしめる。

そうして再びまぶたを押し開けた私は、重い身体を起こしてベッドを下りた。
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