かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
『瀬古さんに知られた以上、奥宮さんにも入れ替わりのことは伝える。だけどそれは、私がひとりで話すよ。だって、奥宮さんにずっと嘘をついてまで会いたいと思ったのは、私のワガママなんだから』


くれはの前では姉の矜恃もあって、あくまで毅然とした態度を崩さずにいたけれど……でも、これから奥宮さんにすべてを話さなければならないと思うと、正直こわくてたまらない。

今朝みた夢は、きっと、私のそんな不安が現れたのだろう。
初めて会ったときよりもっとずっと冷たい表情をしていた夢の中の奥宮さんを思い出して、嫌に鼓動が速まる。

でも……これもすべて、彼に会いたいというワガママを貫き通した自業自得の結果だ。

がんばらなきゃ。……許してもらうんじゃない。この先の関係を望むんじゃない。
名前や見た目は偽りでも、奥宮さんに惹かれたこの気持ちは嘘じゃないって──そこだけは、信じてもらえるように。


たどり着いたコーヒーショップの前で一度立ち止まり、深呼吸をしてから店内へと足を踏み入れる。

ドアをくぐって右手側奥の、階段に近いふたりがけのテーブル席。彼から受け取ったメッセージに書いてあった通りの場所に奥宮さんの後ろ姿を見つけ、またドクンと大きく心臓がはねた。

早鐘を打つ胸を押さえるように片手をあてながら、その背中へと近づく。
すぐ傍らで足を止めると、意を決して口を開いた。


「……お待たせしました、奥宮さん」


私の声に反応した彼は、すぐにこちらを振り向いて。


「立花さ──」


そうして呼びかけた声が、不自然に途切れる。
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