お行儀よく沈んでよ
勝手に納得する彼。何も伝わらない空間。
そういうの、無駄遣いって言うんだ。
勿体ぶって推理披露を先延ばしにする名探偵みたいじゃないか。
とか思っていたら、保科は、よいしょ、って言って、立ち上がった。
「保科?」
急に伸びをして、私のすこし上にある視線を、わざわざ下げて、口元は能天気にわらう。
「俺ね、正直こういうの鬱陶しい」
つめたい、アイスみたいな、笑顔。
「暑苦しいし、ウザったくて氷水をバケツからひっくり返してやりてーって思う。ぜんぶ、なくなればって」
その割にあつい、唐辛子みたいな、ことば。
「でも案外悪くないよ」
ああそうだ。保科ってこういう人間。
同じ教室にいても関わることはごく僅か。だけどいつも印象に残って、消えずに、そのまま好き勝手に浮遊しているような。
そういう、限りなくくだらない何かで、引き留められているような、ひと。
価値観、常人とはんぶんくらいズレて。
「保科って、外見詐欺だよね」
「ゆきみちゃんは時々小難しいことで悩んでばかりだね」
断層みたいで。
それを薄い雪で覆って透かしてる。
「外見なんてどーでもいいけど、」
「勝ち組は傲慢だよ」
「卑屈っぽくて可愛くない」
可愛げなんてあったものか。私の可愛げは小学校にあがる頃に自動的にゴミ箱に捨てられていった。
欠片と微量と繕った女子力、細胞だけで成り立っている。愛嬌があればいいって誰が言った。
保科は微かに笑んで、またしゃがんだ。
「だからゆきみちゃん。お願いがあるんだけど」