お行儀よく沈んでよ
「……は?」
上目遣い。これも勝ち組の特権。
だけどいくら顔が整っていても、保科のつめたい眼には圧がうまれて、なんとなく、顔が引き攣る。
「靴脱いで」
「何故」
「……、」
履いていたスニーカーと靴下を丁寧に並べた彼のことばに、私が怪訝に思うのは不思議じゃない。
「海に突き落とすよ?」
「脅し方小学生か?」
意味がわからない。
「だって見てよ。ここで靴とか履いてんの、ゆきみちゃんくらいだよ」
「さっきまで履いてたやつが言うことですか?」
「何のことですか、人違いでは」
にっこりと邪が含まれたような甘い顔。すこし弛んだ頬が、なんか、可愛げの1ミリ。でも意外。保科、そんな顔でわらったりするの。
仏頂面、気が抜けたまろい表情、企てに賛同する悪人。眠気。普段の保科はそのどれかを曖昧に滲ませて、あまり快くわらわない。
アホな男子共とつるんで巫山戯ているとき、やっとわらう程度。
薄ら、小馬鹿にするようにつりあがる口角が、つめたい黒と似合っているの。
「強情」
「そっちが」
やさしくない眼が、私をじっとりと見上げる。
大雑把に靴を投げ出す。負けた気分。気に食わない。
「ねえ、ゆきみちゃん」
「うん?」