お行儀よく沈んでよ



「……は?」




上目遣い。これも勝ち組の特権。


だけどいくら顔が整っていても、保科のつめたい眼には圧がうまれて、なんとなく、顔が引き攣る。




「靴脱いで」


「何故」


「……、」




履いていたスニーカーと靴下を丁寧に並べた彼のことばに、私が怪訝に思うのは不思議じゃない。




「海に突き落とすよ?」


「脅し方小学生か?」




意味がわからない。




「だって見てよ。ここで靴とか履いてんの、ゆきみちゃんくらいだよ」


「さっきまで履いてたやつが言うことですか?」


「何のことですか、人違いでは」




にっこりと邪が含まれたような甘い顔。すこし弛んだ頬が、なんか、可愛げの1ミリ。でも意外。保科、そんな顔でわらったりするの。


仏頂面、気が抜けたまろい表情、企てに賛同する悪人。眠気。普段の保科はそのどれかを曖昧に滲ませて、あまり快くわらわない。


アホな男子共とつるんで巫山戯ているとき、やっとわらう程度。


薄ら、小馬鹿にするようにつりあがる口角が、つめたい黒と似合っているの。




「強情」


「そっちが」




やさしくない眼が、私をじっとりと見上げる。


大雑把に靴を投げ出す。負けた気分。気に食わない。




「ねえ、ゆきみちゃん」


「うん?」








< 12 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop