お行儀よく沈んでよ
額に汗が流れるから、俯くふりをして拭った。呆れて喚くことすら疲れそうな日差しが、ぎらりと私と保科の影を伸ばして。
ちょっとだけ保科の影が動いて、私のスカートは風に揺れて。
うんっ、て顔を上げる頃、海の音が胸奥を震わせた。
「なんでゆきみちゃんって、同じ目線でいてくれるの」
凪いだ。心做しか止まる。ぜんぶ。
思わず彼を見上げれば、保科は何も映していない顔で風だけに当たっていた。
同じ目線、とか、ねえ、身長は違う。見ているものも価値観も考え方もズレも違う。じゃあ何が?
何が同じ? 私たち。
「同じところなんてひとつもないよ」
「でも同じだった」
「ぜんぜん違う」
「じゃあなんで、誤魔化してばかりなの?」
姦しい、セミが鳴いて。
その言葉、波がうって。
間、髪を入れずに笑う。
「なんでここに来たの?」
ああもう気に食わない。夏手前の汗、さんざめく海、光のせいにして独り言ちる私、比例する感情だけを押していくきみが。
ぜんぶ暑苦しい。嫌いだって捨てたい。守って、壊して、自分だけは高みの見物。勝者だと片足を乗り上げて口元はほくそ笑んで。
そんなの、同じって言わない。
「苦しいもの、見てたら、ちょっと安心する」
嫌いなものは嫌いだ。息をとめてしまう液体で構成されたそれ。嫌い。だけど、何より安堵をくれる。
「私はまだマシだって言われてるみたいでしょ」
だから同じだというなら、今すぐ捨ててほしい。