お行儀よく沈んでよ
「うーん……、難しいこと言うね」
「ほら。決定的な違い、だから同じじゃないよ」
「そうじゃなくて、」
言葉をとめた保科はすこし視線を逸らして、海を見て、未だにぎゃあぎゃあ騒いで五月蝿い男子共を見やった。
横顔はいつもより暑そう。
それでも幾分か涼しげにしている。
「ゆきみちゃんは、誤解しているだけかもしれないよ」
「誤解なんてひとつも」
「俺ね、すっごく暑がりで、でもこういうノリだから我慢はできる」
「……、ハァ、」
「知らない? 目に見えるものだけが遍く人の価値観じゃないって」
そりゃあそうだ。
見えるものだけを安易に受け取って、そのまま飲んで、馬鹿正直に今の今までのうのうと生きていられるわけがない。
そんな人間、国宝級。
きゅっと細まる瞳が、冷を掻い摘んでまた見合う。
「でも私は変わらない」
私は勝手に好き嫌いを通して、保科もきっと。
「俺は、変わってもいいよ」
初めて見た気がした、凜と鋭利な色。添えられた笑みはいつもより強ばって。ずっと、あつい。
変わってもいいよ、って。
上から目線。
それなら、私も強がって。
上から目線。
なんて鬱陶しく仰々しい。
「私に言うこと?」
「うん。ゆきみちゃんにお願いがあるって言ったじゃん、さっき」
「お願い?」
忘れてた。