お行儀よく沈んでよ



「それ、今言うのはずるいんじゃありません?」


「誤魔化そうったって無意味ですよ」


「 “ 一方的なお願い ” なら聞かない。アンタに媚び売っても何の得にもならないし」


「あ、やっぱり猫被ってたの」


「そうじゃなきゃやってらんないよ、この暑さ」


「あは。同感」




私は簡単に引き受けるほど心が広くない。はっきり言ってその辺の川幅くらいしか広くない。


面倒くさいのだ。だからぜんぶ気象に責任押し付けて、頭のネジ、一本くらい外してもいい、なんて。


今日限定。




「後出しでもいいよ、見返り」


「…乗った」




口角がつりあげられる。ああ嫌な笑い方。だけどきっとそれは同じなんだろうな、と、保科の目が言ってる。


厭だ厭だ。幼児特有のイヤイヤ期? そう言われても構わない。誰だってすべて投げ出したくなる日ってあるんでしょう。


私がそれ。可燃ごみとして回収してくれないか。分別くらいなら真面目にこなそう。曜日くらい守るさ。


逃避。妄言。拾得。また逃避。


繰り返してぜんぶ却って、そしたら同じだとわらえるの、かな、とか、殊勝にはにかむ。


無理。私に似合わない。らしくない。乙。




「できれば私が得するお願い」


「ぜったい得しかしねーから安心してね」




ひらひらと手を振って、彼は男子共の群れに声をかけた。




「………そろそろ脳外科行きだわ」




私、今日可笑しいもん。









< 15 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop