お行儀よく沈んでよ



あつさで頭やられちゃったみたいだ。


笑顔笑顔。いつから剥がれ落ちたんだ。どこに落としたんだ。笑顔。うん。できるだけ楽しそうに。




「さーやーちゃんっ」




完璧。


不意に押し出た眠気を昇華させて、手を振りながら走る。あの子がわらう。結果はどう、って。




「私に任せなって言ったろ。宣言通り茶化してきたぜ」


「やけに手こずってたんじゃないのー?」


「それは反省。保科はラスボスだった」


「おつかれさん。アンタには特別に褒美を取らせよう」




沙優ちゃんは呆れたあと、いつものように乗ってくれる。だいすきだぜ、とウインクしてみせると、安売りするなとチョップを食らった。


マジで痛え。ほんとに女子か? 失礼だから言いかけてやめた。沙優ちゃん様、怒ったら閻魔だもん。




「あざっす。次は田中の野郎を茶化してくる」


「なんで、」


「個人的に恨……、じゃなくてお礼をしてあげようと思ってですね」


「やめなさい」


「だ、だって私の沙優を……あのやろうは! 許せねえ!」


「まじでやめて……こっちが恥ずいわ、でもありがとな」




乙女が日差しを受けて眩しく微笑む。私はわからない。なんでこんなに眩しくて苦しくて、あつくて、つめたいのか。


いいことだよ、誰かが誰かを想うのは。愛って陳腐なことば、人間には必要不可欠だよ。


だけど、何だろ、わからない。私、何を悲しく沈んでるの。










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