お行儀よく沈んでよ
浮遊したぜんぶは一瞬だったかもしれない。手が引かれるまま黒い青に目を向けても。
「ああああ厭だ厭だ私バカだ!」
「いーじゃん。俺とおそろじゃん?」
「全く良くない!」
仰向けのまま落ちる保科は、いつもの数倍たのしそうなのだ。瞳はいつもの数倍あたたかくて。
いつの間にか繋がれていた指先は強がっている。
ああもうすぐあの嫌いなあいつに飛びいることになるなら。
傍観者で良かったのに。
私、傍観者のまま、能天気を計算して、それで。
落ちる。
ぎゅっと、繋いだ手が、引き合った。
「保科、」
背中から落ちていくってどんな感じなのかと思うより早く、飛沫がきらりと跳ね上がる。
彼の身体が包まれる、水と、あとは注ぐ光、反射。
飲み込まれる前、保科は私に何か言って。
「っ、ん」
目を瞑る。
繋いだ手から沈んでいく。
深い。
瞼が暗い。
冷たい。
明るい。
触れ合うそこだけ、温かい。
「ゆきみちゃん」
やけにはっきり聞こえた声。
もがいて、酸素を求めて、弛んだ髪ゴムを解いたあと、ふっと液体のなかに二酸化炭素を落とした。
苦しい。息。苦しい。